桑原金作さんが蒐集された今晃さんのこけしを入手された方々から「彩色も褪色しておらず、木肌が馴染む!どのような手入れ、保存をされているのか?」と、よくお聞きします。
今さんのこけし仕上げは、木地に蝋がけをせず、木賊(とくさ)仕上げが基本です。時としては、バンカキや木賊もかけずに、鉋痕さえも楽しむことがあります。(この点が批判の対象でもありますが、項を改めて述べます。)津軽系こけしの特色として胴模様が極めて淡白で、ロクロ線1本やまったく描彩しない白胴のものがあります。これは逆に、こけし本来がもつ木肌の味わい深さを生んでいます。
こけしは、本来は子供たちが口にしたりするおもちゃでもあり、蝋がけをしませんでした。子供たちが手にして遊び、汚れ、拭いて、そして生き残ってきたものです。そこには人の手垢、木肌がもつ自然な馴染み、そして木地から滲み出てくる味わいがあります。「こけしを素手で触れ、木肌に馴染む」といいますが、今のこけしは大人の鑑賞品ですから、如何に見栄え、綺麗であるかが優先されており、手で直接触れることは珍しいです。(その点、一金会鑑賞会や桑原さんは、全てのこけしを素手で触れ、味わうことができます。)
桑原さんは、そのこけしの木肌が持つ味わいを生むために、ともかく手ぬぐいで磨いて磨いたそうです。しかし、それでも自然な木肌から生まれる油脂分の味わいがなかなか出てこなかったそうです。そこで、仏壇に供えてあった小さな透明な仏壇蝋燭を軽く擦って、手肌の温みと手ぬぐいで擦ったとの事でした。そして、年2回、今こけしに語りかけながら、手ぬぐいで磨いたそうです。それ以外の期間は、ダンボール箱に仕舞って保存をされていましたので、こけしの褪色はまったくないのです。
今さん自身は、上記の木肌仕上げを成されておられたので、「桑原さんのこけしへの蝋がけには、あまり、感心をされなかった」ようです。しかし、最近、桑原さん宅を訪ねられ、桑原さん手入れのこけしを手にされ、手肌に馴染むことに驚かれたそうです。
私は、今さんに限らず注文こけしへの蝋がけはしてもらいません。来訪される方々には、こけしを素手で触れていただき、木肌の味わいをも楽しんでいただいてもらっています。こけし展示(保存)は、HPに掲載にあるこけし棚を、棚裏側は10cm空間と布張りしての通気性確保し、普段は、前面には遮光カーテンを張り、室内は電球照明で紫外線を避けています。そして、囲炉裏にあたりながらこけしと遊んだり、見学の方がお見えになったときなどにカーテンを開けます。