今晃さんの上り・下り南蛮模様の8寸こけし(「F157」「F158」)、昭和61年9月作です。この面相は、秋田城趾発掘で出土した土器に描かれていた人面である。
秋田市の桑原金作(「今晃のこけし」 http://sanejiro.sakura.ne.jp/main/?page_id=13 )さんの近所には、「続日本書紀」天平5年(733年)、奈良時代「出羽の柵」として築かれた秋田城跡があります。そこから人の顔を墨書きした人面墨書土器が発見された。大払いの神事では、板で人の形を作った人形などに息を吹きかけ、人についた禍いや汚れを水に流してお祓いをした。人面墨書土器も同じように中に息を吹き込んで、蓋をして流した。災厄や疫病と共生せざるを得ないその時代の人々の知恵だったらしい。
今さんは、秋田城趾を訪ねた際、人面墨書土器を見て「凄い、凄い!」と筆の技を賞賛され、しばらく見惚れていた。数ヶ月後、「できたヨ」と、人面墨書き土器写し(「N015」)に仕上げて、届けに来られた。「天平の名人も顔負けだネ.」と言ったら、笑って「イヤイヤ、太刀打ちできる技ではない!」と、「天平の思いの品」であるとの事。その面相をこけし(「F157」「F158」)にも仕立てた。耳と髭を省き、髪型も簡略し、特に、眉を逆湾曲にしたこけしは、初めての応用で注目される。3筆の口の描き方も、素朴で、単純な表情に、描きあげた深紅の南蛮の胴模様が良く合い、調和している。千年以上もの昔の美に対する感性は素晴らしいものがある。木地挽きは荒く仕上げられ、良く似合の素直な形で、安定感がある。上り南蛮と下り南蛮を描き、この2本を向かい合わせると、また、別趣の味わいがある。 (桑原さん談)
コロナ終息を祈る!!
・「史跡秋田城跡」秋田城を語る友の会発行・「疫病と日本人 戦いの物語」朝日新聞2020年5月17日号(48112号)17p参照