「20」 「今こけし・エピソード2(左手での描彩!)」

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昨年4月に、今晃さんのこけし図譜「木おぼこ・今晃」を発行し、各地のこけし行事の全てに参加して、ご案内をしてきました。今晃さんのこけしに魅了され、評価をされている方々には、その図譜にも大いに期待をされ、励ましをいただいています。 その反面、伝統こけし愛好者の方々の中で、今晃さんのこけしを捉えて、「今晃のこけし(特に、本人型こけし)は、伝統こけしではない」「今晃は、わざと下手に描こうと、左手で描いている」などとの痛烈な批判も多々ありました。出会った方々やHP「木おぼこ・今晃」などでも、その様なことをよく聞かれます。
今さんの本人型こけし(清俊夫さん曰く「創作伝統こけし」)については、愛好者の方々にはいろいろな見方、評価があるようです。図譜「木おぼこ・今晃」の「今晃さんのこけし遍歴」において、今さんの「原津軽こけしを求めて!」への志向、秋田こけし会通信での今こけしを巡る論争、橋本正明さんの見解(「こけし概念」)等々を掲載しました。そこには「伝統こけしとは、何ぞや!」という本質的な問題提起があります。みなさんにおかれましては、どのようにお思いでしょうか!
「左手での描彩」は、確かに、斉藤廣純さんのHP「今晃の世界」には、「面相筆を使わず中筆のみ、それも筆の端っこを持ち、時には左手で(?)、上手で綺麗なこけしを作るのではなく、あくまで童心に返った自由な感覚から生まれるこけし、それが今晃さんのこけしです。」と記されています。また、沼田元気さんの「こけし時代創刊号・津軽特集」(こけし時代社発行)には、今さんが左手で描いている場面が写真掲載されています。今こけしを評価されない愛好者の方々は、今さん自身の描彩実態(真意)を把握され得ず、表面的なそれら一場面の描彩を捉え、批判のための批判をされているようです。
今さんは、面相筆を使わず、中筆で描きます。また、その筆使いにも他の工人さんとは大きく違っているところがあります。その筆毛の部分は全てを解いて、筆全体に墨や染料を含ませて用います。その筆身の太さの全てを用いて、且つ、筆先で描きますので、描線に太さや細さ、強弱を含み、木地に描線の滲みなど筆捌きの妙味を生みます。また、こけし時代創刊号の写真にあるように筆の端を持って描きます。筆端を持って描くということは、筆先に動きを伝える(描彩する)には大変なのですが、筆先が持っている可動範囲が極めて広くなります。その広い可動範囲の中で、敢えて、その狭い面相を描く、描彩をするわけですから、その分、凝縮された自由度が生まれます。その味わいが今こけしの持っている大きな特徴です。その微妙な筆捌きの違いに魅せられてしまいます。
左手でも描くことには理由があります。右利きの方は、右目眉を描くとき、中央から右に筆を運んで描きます。では、左目眉はどう描くのでしょうか?右手で中央から左に描く方と、左から中央に描く方がおられます。そうしますと、右目眉の筆の運びと左目眉の筆運び、筆力とが違った線描が表出します。今さんは右利きですから、右目眉は右手で中央から右へ描きます。そして、左手で、左眉目を中央から左に描き、左右の筆捌きを得ています。
ある時、左利きの桑原金作さんが、左右の手で、筆文字を書かれ、その紙の裏側を見せて、筆運び、筆力などの違いを教授されたそうです。実際、その時、今さんが右手だけで描いた筆運びを裏側から見たとき、歴然とその違いに気づかれたそうです。その為、左手の筆運びや筆力が右手と同じぐらいになるように、左手での自由度を得るべく、左手での箸使用など、日常生活の中で左手使いの訓練をされたようです。今では、左右の手で同じように描彩をされます。
(囲炉裏部屋で、こけし談義?)
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