「82」 「木ぼこ」頒布小寸こけし(塚越勇さんの解説)

昨年(平成28年)春に、閉店をされた町田市のこけし専門店「木ぼこ」(店主苅部りょう氏)では、今晃さんの小寸(3寸)こけしを頒布されていました。平成14年5月から平成25年1月まで、11年間に渡って、5本一組で63回、合計315本を頒布されました。当初は十数人の方々に頒布をされていましたが、最後は3人ほどになったそうです。今さんが平成25年に下半身の痺れや麻痺を発症されて、頒布が困難となりました。

塚越勇さんは、今晃さんのこけしに魅せられ、蒐集をされておられます。伝統こけし販売店「つどい」では、今晃さんに津軽系の各種復元30点を依頼し、平成1年7月から平成2年8月まで頒布をされ、機関紙「こけし談業」を発行された。塚越さんは、その中で、「つどいにおける今晃工人の軌跡(1~30)」で解説された。また、HP「木童舎」http://kidousya.at.webry.info/を発信されて、今晃さんのこけしの紹介や、「木ぼこ頒布小寸こけし」への思いを語られておられます。今回、それらを収録し、HP「木おぼこ・今晃」で公開している「こけし店木ぼこ」―頒布こけしーhttp://sanejiro.sakura.ne.jp/main/?page_id=439 に合わせて、再編集をしました。比較しながらご覧ください。(今回、このブログで紹介しますが、後日、ギャラリー一覧に再編集してアップします。)

今さんは平成25年春に病を再発され、6月下旬に重篤状態で入院をされた。7月に見舞に伺った時、(今さんは、「木ぼこ」頒布こけしを一組ずつ、全てを所蔵されておられたようで)「坂入さんになら!(買ってもらいたい。)」と、この「木ぼこ」頒布こけし315本の全てを譲っていただいた。(その経緯は、図譜「木おぼこ・今晃」の「今晃さんのこけし遍歴」を参照)そのこけし315本には、1本1本に個性があり、楽しまさせてくれます。また、一堂にまとめて眺めてみますと、壮観な一つの今晃の世界となっています。みなさんも、お楽しみください。

(タキロンの蓋でケースになっていますので、ご覧になりたい時、公開展示をされたい時は、連絡をいただけましたら、持参いたします。)

   「木ぼこ」頒布豆こけしへの想い。    塚越勇

   ―HP「木童舎」豆こけしコレクション http://kidousya.at.webry.info/ -

・1回。横浜から静岡まで1時間余りかけて新幹線を利用して受け取りにいきました。いつも、こけしを求める旅は北の方角ばかりでしたので、西に向かってこけしを求める短い旅は不思議な感覚であったことを覚えています。

・2回。今晃作品のスモールワールドをお楽しみください。

・3回。2ヶ月に1回程度の頒布回数で、最初のころは不定期で頒布されていました。

・4回。ロクロ模様と豆こけしの表情が、今晃だけの世界を創造しています。

・5回。いつか、どこかで見たような、やんちゃで、腕白な表情をしている豆こけし達です。

・6回。枝梅模様の豆こけし達です。蕾から3分咲き、5分咲き、7分咲き、満開と描き分けた模様を並べてみると、時の移ろいを感じさせます。

・7回。アヤメ模様で着飾った豆こけし達は、5人で何かを語り合っている如く、動きある表情をしています

・8回。まるで、カンデンスキーが描く抽象画の様な胴模様です。このような作品を作れるのも「今晃」しか居ないのではないでしょか。顔の印象が何とも言えない、よい表情です。

・9回。顔が何と言い表してよいか。そのお惚けの表情が胴の花模様と共に、強く心に残ります。

・10回。ビックリまなこの豆こけし達です。何に驚いているのか目線がバラバラなのが少し気になります。

・11回。向かって右端、笑い顔の豆こけし以外は何か困っている表情に見えます。何に困っているのか、一人だけ笑っているのが少し気になります。

・12回。春の野に咲く花々に似た胴模様と顔の表情が楽しい豆こけしとなっています。

・13回。豆こけし達は、何に怒っているのか、少し怒り気味の顔をしています。

・14回。何が嬉しいのか、楽しそうな表情の豆こけしです。花の胴模様は大胆にデフォルメされています。

・15回。定まらない視点で、空中を見つめる豆こけし達、それぞれ何を見つめ、何を想っているのか、少し気になります。

・16回。大胆にデフォルメされた胴模様の植物。何となく嬉しそうな顔の表情、平成20年の毎日がこの様に穏やかであれば。

・17回。特徴は胴模様にあります。抽象画家が描く絵画に似て、まるでミロカンディンスキーを思わせるものがあります。

・18回。胴模様は山野草の花を抽象化したものです。大胆にデフォルメしてありますが、それでも野の花に見えてくるのは、今さんの感性が成せる技なのでしょう。

・19回。何かに困っているような顔の表情と、大胆に描かれた花の胴模様が、良く似あっています。

・20回。表情は少し困ったような様子ですが、胴模様は斬新で多彩な模様が描かれています

・21回。これで100本を超える豆こけしが創生されました。

・22回。100本を超えて尚、豆こけしを作り続ける今さんの粘り強さには頭が下がります。そんな今さんが私は大好きです

・23回。胴模様はトランプ4種類の意匠ですが、トランプ模様も面白いアイデアです。(胴模様が「いろは」のこけしもありました。)

・24回。豆こけしに大胆な模様がよく似合っています。

・25回。使われている絵具が変わっていて、パステルカラーを思わせます。

・26回。身近な山野草の花達を意匠として描く、素朴で純な精神を想います

・27回。胴に描かれた花は何でしょうか?

・28回。胴模様は何の意匠か分かるでしょうか。答えは「雪」の結晶です。

・29回。今回の豆こけしはこの頒布会の代表作品といえるものと考えています。それほど素晴らしい。(30回)

・30回。表情が変化してきました。(31回)

・31回。途中3回分が抜けてしまった。その内の1回分が出てきましたが、31~33回分のどれだか分かりません。(33回)

・32回、・33回が不明となっています。*、29回から33回まで、頒布内容が混乱しており、赤字で訂正しました。29回と32回分が不明のようです。

・34回。この豆こけしシリーズは何かこれからの伝統こけしの進むべき道しるべになるように思えてきた。今さんのこけしの一部は伝統こけしと認められないという方々がいるとも聞き及んでいます。肘折こけしの祖形といわれている柿崎藤五郎のこけしを西田記念館で観てきました。このこけしは明治20年代の新型こけしであると思いました。鳴子と遠刈田の混血創製ということは新型こけしと同じであるという認識です。もっと自由な発想が出来るのが伝統という名称ではないでしょうか。

・35回。こけしは癒しの人形として、これからも連綿と伝え続けられることを切に願っています。

・36回。北国の木の花(梅?)の胴模様が墨絵風に描かれたこけし達です。

・37回。心なしか悲しみと怒りの表情を持ち合わせ、津軽の自然を胴模様に表現し続けている。今さんの豆こけしには、人間、誰しもが心の隅に潜ませている闇の狂気を穏やかにし、傷ついた心を癒す力があります。

・38回。3頭身と呼べるほど、頭が大きく作られている。一筆目と眉の描き方により、表情が千変万化するという事がよく分かる。単純な線の描き方でも吊り上げたり、下げたり、間隔を離したり、近づけたりで、その顔の表情は怒ったり、泣いたり、とぼけたりと単純な線とは思えないほど、観るものの心を捉えます。そして、胴模様も秀逸で「今ワールド」を作り上げています。

・39回。困り目、いたずら目、やんちゃ目、おこり目、ビックリ目等がそのどんぐり眼に表現されているのを見ると、我が子の遠~ぃ、昔の面影が脳裏に浮かんできました。胴模様の変化と表情に今さんの技量をあらためて認識した次第です。

・40回。まるで象形文字を想起させるような胴模様は、墨(墨+何かの色)で描いたことにより、言葉で形容しがたい造形を与えてくれます。

・41回。今晃ワールドと呼べるメルヘンの世界から来たかのような可愛い豆こけし達である。だんだんと若返るような雰囲気を漂わせている。その不思議な物語を連想させるように、あどけない幼子の表情を見せている。

・42回。表情は、今の世相を反映するかのように、怒っていたり、驚いていたり、ビックリしているように見えるのは私だけでしょうか。春の訪れを思わす暖かな花模様です。

・43回。16年前と変わらない今さんと今さんの家がありました。嶽の風景一員である山野草を見事にアレンジして描いています。表情も明るく素直で、観ていて心をほのぼのさせる作品になりました。

・44回。持病の痛風をおして制作したと伺っている。今まで1本として同じ顔のこけしを描かない今さんの技量には感心してしまいます。

・45回。感情表現は人間である限り一人々で微妙に異なるものであるが、それを五本の豆こけしで表現している。単純省略されたこけしは、それを見て喜怒哀楽の感情を鑑賞者に興させるには、制作者側に大きな表現力を求めるものである。今さんはそんな難しい問題もサラリと描き上げ、なお且つ微妙に異なる困惑の表情を、人間の感情表現と同じように描き分けた。今さんの類まれなる才能を遺憾なく発揮したものになった。

・46回。「なんと素晴らしい!!」の一言です。各々の顔の表情、「伝統」という言葉に捉われない胴模様の描彩、そして鉋溝の効果的な使い方は「豆」ということを忘れさせるほどの秀作です。遠~い昔の子供達の姿を彷彿させる作品からは、今の日本がどこかに置き忘れて来てしまった、大切な何かが表現されているようです。

・47回。単色のこけしは余り記憶にない。真冬の岩木山山麓は雪一色の銀世界。厳しい自然と生活を想起させる心象を墨一色で表現する。大きく見開く眼(まなこ)からは、こけしに託した今晃工人の人生が見えてくるようである。

・48回。「岩木山の麓はまだ、白一色の白銀の世界ですが、送られて来た豆こけしは春満開です」と。小さな胴体に「桜か桃」をイメージするパステルピンク色の草花が描かれていた。首周りにビリカンナの飾りを捲きつけて、その愛らしさをより一層惹き立てる。

・49回。染織用の絵具も渋く落ち着きがあり、よい絵具と思っていたが、水性染料の鮮やかな色合いを見ると、何か新鮮な感覚を覚える。北国の初夏を向える童の心を表現するには、色鮮やかな水性染料の方が似合うようだ。

・50回。全ておかっぱ頭であり、胴模様はつる草を描いているが、その顔の表情と合間って、可憐さを演出している。

・51回。若い人たちの柔らかな感性に、今さんの作品群はきっとインパクトを与えていると思う。どこか懐かしさを感じさせる表情と秋を思わせる胴模様との組み合わせであるが、遠い昔の子供たちを偲ばせる。

・52回。東北新幹線が青森まで全線開通し、東京駅から3時間20分で着いてしまう。その様な社会になっても、東北地方で誕生し、育まれた伝統こけしには強い郷土色を感じる。今さんが作り続けている伝統こけしは、津軽の文化そのものであるという事である。こけしは津軽平野のりんご畑の初冬の姿を思い浮かばせる。

・53回。セーターと帽子をかぶった子供たち。暖かなセーターと帽子で、記録的な大雪に見舞われた津軽の子供たちも元気そう。

・54回。「震災後の作品であるため、抑えたものになっている」との事。私には震災で亡くなられた人達への、鎮魂の作品と思われてしかたない。顔の表情もどこか虚ろで、胴模様は塔婆の凡字に見えるし、霊魂の動きのようにも見えてしまう。

・55回。花々は被災された北国にも、春が来た事を知らせてくれているようだ。明るい希望のある表情とは異なり、困惑の想いが胸中に溢れんばかりの表情を現しているようだ。一刻も早く、胴模様の花達に似合う、明るい表情が描ける様な「東北」を想うのみである。

・56回。古鳴子を彷彿させる静かでおとなしく、観ている者の心に染みいるような表情と花達である。「木ぼこ」の主人は「小松五平を感じさせる」と言っていたが、私もそう感じた。

・57回。「木ぼこ」の主人から「今さんの体調は相当悪いようで、入院(10月)されてしまった」と聞き、言葉がなかった。坂入氏からも、今さんの近況を教えて頂けたが、予断は許されないくらい今さんの健康状態は深刻だ。体調不良でも無理をして制作していた事を窺わせる作品があった。真ん中の一本がそれで、左の眼点はレ点線状に打たれ、壮絶な表情に描かれている。下目蓋も擦れて痛々しく、鼻の描彩も痛みに耐えて描かれた様に見えるのは私だけか。今さんのまごころがこんな小さなこけしから見てとれる。この顔は負けん気の表情を持っている。

・58回。大病後、初めての頒布です。「エンジュ(縁起のある材で、病後の健康を希っている。)の材料で制作したのは初めてではないですか」ということである。「ロクロに上がっていれば、痛い事や辛い事も忘れるので、これからも仕事を続ける」という話であった。

・59回。病気後、作風が変わってきた。傘こけしは、5本とも表情が皆異なる。それも一目で分かる表情(喜怒哀楽)の違いである。特に目と口の描き方の違いが、各々の作品に与える印象を「これ程まで異なる表現になるのだ」といっている。胴に描かれた野草の花達や首に巻かれた手描きの模様、そして傘の飾りも、その自由度は益々、増すようである。

・60回。60回目を迎える事ができた。新型こけしに見紛うようであるが、今さんの感性溢れる作品である。病気との闘いがあるとは思えないほど、静かで穏やかな作品であり、安らぎを与えてくれる。それにしても、モダンで可憐なこの様な作品を生みだす今晃工人の生命力には驚きを隠せないでいる。

・61回。今ワールドの本領発揮の作品で、病の影など微塵も感じられない程のできである。「やんちゃ」で「きかんき満々」の子供達は、どこかその印象が、ブサ可愛い「奈良美智作品」に感じる。秋草を思わせる胴模様を一本一本変えてあり、頭部の髷飾りは、その可愛らしさを一層引立てる。

・62回。来年は今さんも還暦に成るというが、いつまでも制作をつづけて貰いたいと願ってやまない。冬バージョンを思わせるマフラー様の首巻と簡略な胴模様からは、少し寒々さを感じるが、これはこれで、津軽の季節感を表現している。

・63回。「アートになっていて、渋くて魅力的な作品」が目に飛び込んできた。「仙涯」が描いたかのような雰囲気で、禅画を思わせるできに成っている。どの作品も、大病後とは思えないほど、作品へ命の吹き込みが感じられる。

 

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